2022年1月24日 礼拝説教 「剣で心を刺し貫かれる」

2022124日 礼拝説教

剣で心を刺し貫かれる

ルカによる福音書23340

33節             父と母は、幼子についてこのように言われたことに驚いていた。

34節             シメオンは彼らを祝福し、母親のマリアに言った。「御覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人を倒したり立ち上がらせたりするためにと定められ、また、反対を受けるしるしとして定められています。

35節             ――あなた自身も剣で心を刺し貫かれます――多くの人の心にある思いがあらわにされるためです。」

36節             また、アシェル族のファヌエルの娘で、アンナという女預言者がいた。非常に年をとっていて、若いとき嫁いでから七年間夫と共に暮らしたが、

37節             夫に死に別れ、八十四歳になっていた。彼女は神殿を離れず、断食したり祈ったりして、夜も昼も神に仕えていたが、

38節             そのとき、近づいて来て神を賛美し、エルサレムの救いを待ち望んでいる人々皆に幼子のことを話した。

39節             親子は主の律法で定められたことをみな終えたので、自分たちの町であるガリラヤのナザレに帰った。

40節             幼子はたくましく育ち、知恵に満ち、神の恵みに包まれていた。

人は理想にあこがれ、英雄を求めます。羽生結弦の四回転半ジャンプ、内村航平のブレトシュナイダー、大谷翔平がピッチングの合間に放つホームラン。どれも、人間の能力をギリギリまで追求した成果として生まれる物です。人の限界を超え、神の域に入りそうなその姿は、見る人に何とも言えない快感と、不思議な勇気を与えます。

「あなたの子供は英雄になります。」これは親にとって嬉しい言葉かもしれませんが、同時に自分の子供が多くの危険に晒されることを意味します。身近な例はアフガニスタンに絶大な貢献をした日本人、ペシャワール会の中村哲さんでした。ご本人もご家族も、危険な地域で活動している以上、命を落とす覚悟はできていたと思います。しかし、何年も献身的にアフガニスタン人の生活改善に努めてきた中村さんが、現地のアフガニスタン人に殺されるのは、聞くに忍びない話でした。中村哲さんは正に、現代日本が生み出した英雄の一人ですが、人類に大きな貢献をする人たちの、命の危うさを物語る人でもあります。

特別な子供を産んだ喜びに浸っていたマリアに、今度は厳しい言葉が向けられました。「あなた自身も剣で心を刺し貫かれます。」シメオンは我が子が十字架に付けられるのを目撃することになるマリアの将来を正確に予告しました。人目を引く行動は非難の嵐を招き、理想を追う人はいつも、失敗と背中合わせに生きることになります。身の安全を考えるなら、周囲の目に付かない方が得です。冒険することなく、家から遠出しないのが一番です。困難を避けられるのは、印象に残る発言もしない、周囲に歩調を合わせる人間です。

人類には解決できないと諦めている課題が山ほどあります。世の中に数え切れないほどの、あってはならない不正があり、それに苦しむ人たちも大勢います。しかし、立ち上がって、正面からそれに向き合う勇気と行動力がある人間は稀な存在です。人間社会は、恰好を気にして、自分の得を優先させる人に興味はありません。求められているのは、自分を省みることなく、不可能と思える課題に体当たりする人間です。

シメオンの次に、アンナというおばあさんが登場します。エルサレムの神殿から離れないで、祈りながら断食を繰り返している人でした。年齢は今の日本人の平均寿命に当たる84歳でしたが、「非常に年をとっていた」と書いています。新約聖書時代の寿命について正確なデータはありませんが、今の日本よりも、かなり短かったのが推測できます。このおばあさんは、人間に神様の意思を伝える役目を担う預言者でした。シメオンの、赤ん坊イエスについての言葉を聞き、それを裏付ける預言の言葉を語りました。

ここまで来ると、マリアとヨセフの子は、当時の社会に、れっきとしたユダヤ人として受け入れられる条件が揃いました。孫の顔を見ると人の心は和みます。ナザレの村に戻る時が来たと判断したマリアとヨセフは、幼子イエスを連れ帰り、元の生活に戻りました。ルカはイエス様の子供時代について多くのことを語りません。「たくましく育ち、知恵に満ち、神の恵みに包まれていた。」という言葉から想像するしかありません。

大人になったイエス様は、「わたしに付いて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負ってわたしに従いなさい。」と言いました。優しいイメージがありますが、弟子たちを甘やかすつもりはなく、英雄の生き方を求めました。彼らにも避けられない物がありました。マリアの心を刺し貫く、あのシメオンが語った剣でした。 

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