2019年6月17日 礼拝説教 「バカモノ!」
2019年6月17日礼拝説教
ルカによる福音書12章13節 ~ 21節
13節
群衆の一人が言った。「先生、わたしにも遺産を分けてくれるように兄弟に言ってください。」
14節
イエスはその人に言われた。「だれがわたしを、あなたがたの裁判官や調停人に任命したのか。」
15節
そして、一同に言われた。「どんな貪欲にも注意を払い、用心しなさい。有り余るほど物を持っていても、人の命は財産によってどうすることもできないからである。」
16節
それから、イエスはたとえを話された。「ある金持ちの畑が豊作だった。
17節
金持ちは、『どうしよう。作物をしまっておく場所がない』と思い巡らしたが、
18節
やがて言った。『こうしよう。倉を壊して、もっと大きいのを建て、そこに穀物や財産をみなしまい、
19節
こう自分に言ってやるのだ。「さあ、これから先何年も生きて行くだけの蓄えができたぞ。ひと休みして、食べたり飲んだりして楽しめ」と。』
20節
しかし神は、『愚かな者よ、今夜、お前の命は取り上げられる。お前が用意した物は、いったいだれのものになるのか』と言われた。
21節
自分のために富を積んでも、神の前に豊かにならない者はこのとおりだ。」
日本人は貯金好きだと言われていますが、最近の統計を見ると、それは昔のことになりつつあるのではないかと思わされます。バブルが崩壊する前の1980年代、貯金が全くない日本人は、全体の5%程度しかいませんでした。しかし、最近は年代、収入に関係なく、貯金ゼロの人が増え、調査方法にもよると思いますが、約3割の人は貯金が全くないと言います。昔の生活相談員は貯金のない人にまずは20万円貯めるように勧めました。貯金が全くないと借金生活に陥りやすく、小さなハプニングに対応する力が弱くなり、心も不安定になると考えたからです。
最近はクレジットやカードローンがあるから大丈夫だと思う人が多いようですが、先日、金融庁は報告書の中で、年金をもらっても退職するまでに2,000万円の貯金がないとお金が足りなくなるケースを紹介しました。銀行の利息が高く、貯金するのが流行っていた30年前なら通用する話だったかもしれませんが、国民の6割が100万円の貯金もない今の時代にその話が出たので、パニックに近いものが起きました。
貯金はいくらあれば安心でしょうか。悪い事が次々と起こるのを想定すると、いくらあっても足りません。しかし、計画的に貯金し、不幸な出来事に備えて保険に加入する人は賢いという評価を受けます。今日の聖書の箇所に出てくる人は正にそのような人でした。勤勉に働いて大きな収穫を手に入れ、先を見据え、幸運にも恵まれて手に入れた財産を管理する方法を考えました。それまでの苦労が報われるよう、その先は楽をして暮らせる計画を立てました。私が社会人になったころを思い出すと、この人の気持ちがよくわかるような気がします。
今の銀行利息はほぼゼロになっていますが、そのころ定期預金を作ると年利5~6パーセントの利息が付きました。マル優という制度を活用すると非課税になったので、引き下ろさなければ利息で増えた金額にもそのまま利息が付き、黙っていても13年くらいでお金が倍になりました。叶わない夢だと知りながら、一億円貯めると利息だけで暮らせる計算がなりたつのがよく話題になりました。
しかし、この人に対する神様の評価は全く違いました。聖書のなかで神様から「バカモノ!」と言われたのはこの人だけです。老後に向けて賢そうなライフプランを立てたかに見えましたが、大事なことを見逃していました。「これから先、何年も生きて行くだけの蓄えができた」と言いましたが、果たして何年先まで生きていけるかを計算に入れていませんでした。100歳まで生き延びても安心できる蓄えを持つのも重要な事かもしれませんが、今日が人生最後の一日だとしても悔いのないように生きるのがそれ以上に大事なことです。そうでもないと神様から「バカモノ!」と怒鳴られるのは他の人ではなく、この私たちになるかもしれません。
イエス様がこの話をしたのは、ある家庭の遺産相続を巡る争いの仲裁を頼まれたからです。相談を持ち掛けた本人は、命がかかっている真剣な問題として捉えていましたが、イエス様は相手にもしませんでした。お金の仲裁を求めるなら裁判官や調停人がいました。お金にこだわる生き方を捨て、はるかに違う次元のことを考えながら活動していたイエス様に頼むのはお門違いも良いところでした。
高校生の皆様も今後、お金にまつわる話に巻き込まれることがますます多くなります。賢いお金の管理能力を育てる必要を否定するつもりはありません。しかし、お金はもっと大事なものを目指していくための手段に過ぎません。東奥義塾での教育は、そのことを忘れて「バカモノ!」と呼ばれる人間にならないための第一歩だと考えてください。
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