2019年4月8日 入学式 「宇宙を動かす力」

201948日 入学式
「宇宙を動かす力」

ヨハネの手紙第一478

7節          愛する者たち、互いに愛し合いましょう。愛は神から出るもので、愛する者は皆、神から生まれ、神を知っているからです。
8節          愛することのない者は神を知りません。神は愛だからです。

いくら無宗教だからと言っても、人は神を知らないとは言えません。神を知らないと言えるのは、愛を知らない人だけで、愛を体験した人は皆、神の存在に触れたことがあるからです。これは初恋とか、お目当ての人をゲットするレベルの話ではありません。愛には死ぬほどの苦しみが伴う場合があり、甘い香りがするとは限りません。愛する人はしばしば、燃え尽きて忘れ去られます。しかし、聖書は私たちに「愛する者になりなさい」と教えています。愛は宇宙を動かし、すべての良いものを生み出す力です。「神は愛だからです。」

物理学者の立場から見ると、星や惑星などの天体はとても不思議な存在です。彼らによると、宇宙を支える重力がわずかに弱ければ、ビッグバンの勢いで物質がすべて宇宙のかなたに飛び散り、星のような物ができるはずがなかったです。逆に、重力が現状に比べて少しでも強ければ、宇宙にある物質がすべて引き合って、一つの塊になり、太陽も地球も存在する可能性を失ったと言います。重力の強弱はちょうどよい設定になっていて、その結果、人間には住む場所があり、地球からちょうど良い距離にある太陽は、光と熱を提供してくれる存在として、燃えて、燃え続け、燃え尽きるまで、私たちに対する神の愛を表現します。日々、口にする食物もすべて、他の命を支えるために燃え尽きた生命であり、残酷とも言える形で、宇宙を動かす愛の力を表しています。

今日、入学するお一人お一人も、愛の力によってこの世に送り出され、この日まで15年以上、熱い思いに支えられ、育てられてきました。子供がいる夫婦と、いない夫婦の幸福度の調査をした研究者がいますが、その結果によると、ストレスが圧倒的に少ないのは、子供がいない夫婦の方です。子供は親から時間と労力、お金と自由を奪います。しかし、世界中の親と呼ばれる方々は皆、自分の快楽を中心とする生活を選ばず、愛の対象を作り、持っている命を最後の一滴まで絞り出して子供に注ぎ込み、結果がどうであれ、それを最高の喜びとします。

礼拝堂の正面に掲げられた十字架は、人のために命を尽くした後、仲間に捨てられ、孤独な存在として命を燃やし尽くしたイエス・キリストの象徴です。そのイエス様はそれ以前、人気が絶頂に達した頃、次のように言いました。「人の子は仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の代価となって自分の命を献げるために来たのである。」人に忘れられる存在になっても良いので、愛の限りを尽くそう。そう決めて生きた方の模範がこの学校の教育の中心に据えられています。

人は不思議な存在で、他の人にかまわれれば、かまわれるほど、更に多くの事を要求して不満の数が増えて行きますが、愛する対象を見つけ、そのために命を燃やし尽くすと目が輝き、感謝の言葉があふれるようになります。先日、引退会見を行ったイチロー選手には子供がいませんが、「現役時代貫いたことは?」と聞かれたら、「野球のことを愛したことだと思います。これは変わることはなかったです。」と答えました。対象が何であろうと、愛を貫き通す人は、その愛の対象をよく理解していない人たちの心にまで、感動と感謝の思いを引き起こします。イチロー選手の場合、その対象は野球でしたが、この原則を表すとても良い例だったと思います。

大人になった二人の子供を持つ親として、確信を持って言えます。今日の入学式を見守る保護者の皆様がこの時点で、入学する我が子に求めているのは親孝行ではありません。むしろ、親である自分を忘れても良いから、これから始まる三年間、本気になって愛と情熱を注げる対象を見つけて欲しいと願っています。親として一番怖いのは子供に捨てられ、忘れられることではありません。何よりも怖いのは、愛の対象を見つけることができず、気持ちが白けてしまった、活気のない我が子の目を見ることです。親のことを大事に思っているなら、そのような高校生にならないでください。「愛する者たち。愛し合いましょう。神は愛だからです。」

新しく、東奥義塾の校舎に足を踏み入れることになった皆様には、聖地を踏む者に相応しい、厳かな気持ちになっていただきたいです。この学校には津軽の若者を愛し、この地で世界に誇れる人材を育てようと願って命をかけた人たちの愛が詰まっています。開校してから5年がたった1877年、アメリカに向かった5人の塾生の内、二人が後に日本を代表する外交官になったのは有名な話ですが、その陰に留学の苦労が重なって病に倒れ、二度と故郷に戻ることがなかった川村敬三と、弘前初代市長、菊池九郎の弟、菊池軍之助もいたことを忘れてはいけません。愛は人を駆り立て、偉業を成し遂げるのに必要な勇気を与えます。「愛する者は皆、神から生まれ、神を知っているからです。」

新入生の皆様。ご入学おめでとうございます。冬の間、雪に覆われた東奥義塾の広々としたキャンパスは皆様の登校をお待ちしていました。今になって深い雪が消え、冷たく、固い氷も溶けました。間もなく、校舎を囲むリンゴの木に花が咲き乱れ、明日から毎日、この礼拝堂で全校生徒が顔を合わせることになります。教室は新しい学びに取り組む生徒の熱気に包まれ、広い体育館には、元気に走り回る新一年生の声がこだまするようになります。早くこの環境を好きになってください。夢中になれるほど価値のある物に、照準を当てて力を出し切ってください。21世紀の世界で、力を発揮できる人間になってください。

保護者の皆様。本当におめでとうございます。大事なご子息、ご息女の教育を私たちにお委ね下さり、心から感謝申し上げます。十代の若者である彼ら、彼女らは、新しい技術を当たり前のこととして受け止め、いろいろな意味で、紙と鉛筆しか知らない少年、少女時代を過ごした私たちを既に超えています。しかし、その一方、新しい時代が彼ら、彼女らに突き付ける要求も一段と厳しいものになっています。高くなったハードルにおじけることなく、立派に活躍できる力を身に付けて卒業できるよう、私たちと手を取り合って下さい。よろしく、お願い申し上げます。

御来賓の皆様。ご多用のなか、新一年生の門出にご参列いただき、誠にありがとうございます。ここにいる新入生は、戦争の時代も、経済が急成長した時代も知りませんが、新しい世の中で津軽が、そして日本が一目置かれる存在として輝き続けるよう、大事な役割を担う運命を背負っています。これから彼ら、彼女らの成長の過程を暖かく見守り、機会ある度にお励ましの言葉を下さるよう、お願い申し上げます。
  
新入生のお一人お一人が三年後、東奥義塾の教育に裏付けられ、決して変わることのない真理をしっかりと心に刻み、新しい時代の勝利者として、必要な知識と技能を身に付け、このキャンパスから力強く飛び立つことと固く信じ、式辞といたします。

201948
東奥義塾高等学校
塾長 コルドウェル ジョン

Comments

Popular posts from this blog

2019年3月8日 終業礼拝 「心のメンテナンス」

2024年2月26日 礼拝説教 「同行してくださる神」

2023年7月10日 礼拝説教 「人の心を固くする神」