2023年5月8日 礼拝説教 「本物のヒーローの出番」

 202358日 礼拝説教

「本物のヒーローの出番」

出エジプト記31節~10

1節           モーセは、しゅうとでありミディアンの祭司であるエトロの羊の群れを飼っていたが、あるとき、その群れを荒れ野の奥へ追って行き、神の山ホレブに来た。

2節           そのとき、柴の間に燃え上がっている炎の中に主の御使いが現れた。彼が見ると、見よ、柴は火に燃えているのに、柴は燃え尽きない。

3節           モーセは言った。「道をそれて、この不思議な光景を見届けよう。どうしてあの柴は燃え尽きないのだろう。」

4節           主は、モーセが道をそれて見に来るのを御覧になった。神は柴の間から声をかけられ、「モーセよ、モーセよ」と言われた。彼が、「はい」と答えると、

5節           神が言われた。「ここに近づいてはならない。足から履物を脱ぎなさい。あなたの立っている場所は聖なる土地だから。」

6節           神は続けて言われた。「わたしはあなたの父の神である。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。」モーセは、神を見ることを恐れて顔を覆った。

7節           主は言われた。「わたしは、エジプトにいるわたしの民の苦しみをつぶさに見、追い使う者のゆえに叫ぶ彼らの叫び声を聞き、その痛みを知った。

8節           それゆえ、わたしは降って行き、エジプト人の手から彼らを救い出し、この国から、広々としたすばらしい土地、乳と蜜の流れる土地、カナン人、ヘト人、アモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人の住む所へ彼らを導き上る。

9節           見よ、イスラエルの人々の叫び声が、今、わたしのもとに届いた。また、エジプト人が彼らを圧迫する有様を見た。

10節       今、行きなさい。わたしはあなたをファラオのもとに遣わす。わが民イスラエルの人々をエジプトから連れ出すのだ。」

ヒーローになろうと思ったことのない少年はいないと思います。オリンピックの季節になるとスポーツが不得意な子供でも、メダリストになる夢を見ます。ドラマの中で銃を構える兵隊や警察官の姿を見ると、敵や悪人を成敗する英雄となった自分を思い描きます。ファンの喝さいを受ける歌手の姿を見ると楽器に興味を持ってミュージシャンを志します。最初の月面着陸を小学生の頃に見た私は宇宙旅行をする自分を妄想するようになり、自家製のロケットを造れない物かと考えました。

 成長するに従って無限に思えた自分の可能性に限界があることに気付き、超えられそうにもないライバルの前で力が尽き、平凡でも良いかという諦めに傾き始めます。しかし、別な見方をするなら、成長するのは夢を諦めることではなく、ヒーローとは何かということについて理解を深めることです。ヒーローになる条件は、マスコミの注目を受けるかで決まるのではなく、誰かにとって欠かせない自分になることによって実現します。その意味で、脚光ばかり浴びて、誰の役にもたたない偽物のヒーローもいれば、たった一人の人間、または一匹の生き物にしか知られない、本物のヒーローもいます。

 エジプトの王室に育ち、人の注目を受ける運命があると思われたモーセが、荒れ野の奥で羊の群れを飼う人になっていました。これをモーセの落ちぶれた姿と思えば良いのでしょうか。人間社会の目に触れることのない存在になっていましたが、羊たちから見ると、草や水がある場所に案内してくれるモーセはヒーローその物でした。昔の仲間に見られたら、チャンスを台無しにした哀れな人にしか思えなかったかもしれません。しかし、エジプトを離れてから何十年もたっていたモーセを見ていたのは羊ばかりではありませんでした。

 聖書を読むとこのことを学ばされます。挫折した、夢を失った人間に思える人であっても、目を注ぎ続けるお方がいます。モーセの場合も、人の業ではなく、神の業を進める上で、使い物になる人を探しているお方がいました。心を腐らせることなく、人ではなく羊であっても、預けられた命を大事に守ってきた、かつての王子の耳に、誰もいないはずの荒れ野で、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。「モーセよ、モーセよ。」

 大火事になっても、地球にある物はすべて燃え尽きて火が消えます。燃料となる物に限界があるからです。乾燥した荒れ野で灌木が燃えるのはさほど不思議なことではありませんでしたが、モーセが見かけたのは、炎がいくら強くても燃え尽きない特別な火でした。新約聖書に「わたしたちの神は、焼き尽くす火です。」という言葉がありますが、神様は何億年たっても燃え尽きない太陽を作ったお方です。

 人に姿を表すことが滅多にないのは、自己中心やわがままがいっぱいに詰まった心を持ち、いずれは土の帰る骨や肉の塊である人間が、神様の本当の姿に触れるなら一瞬にして燃え尽きるからです。心に一点の曇りもない、宇宙のエネルギーより強いお方が姿を現し、「近づくな、足から履物を脱げ」と言って注意を促しましたが、それと同時に、自分のためにヒーローになれと呼びかけました。

   固い約束を結んだアブラハムの子孫の苦しみが続いているのを見た神様はこれ以上黙っていられませんでした。野心のかけらもない羊飼いとなったモーセに届いたのは、燃え尽きることのないお方からの、出番の知らせでした。

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