2023年4月6日 入学式 「奴隷を開放する神」

 202346日 入学式

「奴隷を開放する神」

出エジプト記3章7、8節

7節           主は言われた。「わたしは、エジプトにいるわたしの民の苦しみをつぶ さに見、追い使う者のゆえに叫ぶ彼らの叫び声を聞き、その痛みを知った。

8節           それゆえ、わたしは降って行き、エジプト人の手から彼らを救い出し、この国から、広々としたすばらしい土地、乳と蜜の流れる土地・・・へ彼らを導き上る。」

 「昔の方がよかったのは何故だろうかと言うな。それは賢い問いではない。」これはとても古い、二千数百年前に書かれた聖書の言葉です。歴史マニアは過去のロマンに憧れ、ドラマや小説の世界にタイムスリップしたいと思うかもしれません。しかし、現実を知ると、ロマンがある時代ほど厳しいものがなかったことに気が付きます。「激動の時代に生まれたら、もっと輝きのある人生を送れたのに」と思うかもしれませんが、そのような時代は、近代社会に甘えてきた私たちが生き残れる環境ではありませんでした。

ニュース番組は、他のテレビと同じように視聴率を上げるのに必死で、世界を客観的に紹介する物ではありません。人の目を引くのは、平穏無事に暮らす人の姿ではなく、悲惨を極める悪い出来事です。視聴者は世の中がますます悪くなっているという印象を受けますが、過去数十年の世界を全体として見ると、人間の生活は良くなる一方です。ここ三年間はパンデミックに襲われましたが、医療が進歩したおかげでその被害は、過去に流行した伝染病に比べると、とても小さなものでした。毎日のように戦争被害の映像が映りますが、50年前に比べると戦死者も、犯罪被害者も、食料不足で餓死する人の数も激減し、極端に貧しい人の割合も半分以下に減っています。

 「神も仏もいるものか」と絶望する人もいますが、岩住宗教主事が先ほど読んでくださった聖書の箇所を思い出していただきたいです。「わたしは、エジプトにいるわたしの民の苦しみをつぶさに見、追い使う者のゆえに叫ぶ彼らの叫び声を聞き、その痛みを知った。」聖書は人生に付き物の悲劇を覆い隠そうとはしません。しかし、人類の悲惨な歴史を描きながら、目には見えないが、人間の苦しみや辛さを心に留め、束縛と痛みから解放する神を紹介してくれます。

 聖書の物語は、天地創造と人類の起源の紹介を終えると、一つの小さな民族を中心に展開して行きます。このイスラエルという民族は虐げられ、自由を奪われ、残酷な支配に苦しめられます。しかし、彼らは見捨てられることはなく、大きな力強い存在は、彼らの「苦しみをつぶさに見、彼らの叫び声を聞き、その痛みを知ります。」奴隷として苦しむ彼らを解放し、「広々としたすばらしい土地、乳と蜜の流れる土地へ導く」と言って彼らの救出に乗り出します。

 聖書の神様は奴隷を開放する神です。しかし、それはここにいる私たちと、何の関係があることでしょうか。それは正にこの日、東奥義塾の十字架の下に集められ、入学しようとするお一人おひとりが同じ神によってこの場所に導かれ、約束の地に導かれようとしていることです。孤独による寂しさ、無知による偏見、迷走による虚しさから解放され、共に戦う仲間、視野を広げる知識、目標に向かう情熱と出会うのはここです。

 東奥義塾は数々の、より良い世界を作る、リーダーを育ててきた学校です。しかし、神様が与える解放は、消極的に受け入れる受動的なものではなく、積極的な関わりを求める、能動的なものです。私たちがここにいるのは、手を取り合って人類の解放と癒しを実現するためであり、周囲を巻き込んで一歩ずつ、人類が理想とする物に向かって進んで行くためです。

 昨年は50年ぶりに中学生が東奥義塾の門をくぐり、6年をかけて地球市民として飛び立つ準備に取り組みました。今日から、彼らに後輩が生まれ、一年前に始まった冒険は新たな段階に進むことになりました。高校生になった皆様は、青春の前半を新型コロナの制約を受けながら過ごして来ましたが、規制に縛られた窮屈な生活の終わりが見えて来ました。中学校時代に経験できなかった解放感を味わいながら、これまで貯めて来た若いエネルギーを爆発させて欲しいと思います。

新入生の皆様。ご入学おめでとうございます。冬が去り、雪がとけ、東奥義塾の象徴の一つになった人工芝のグラウンドは、青々とした姿を現し、元気に走り回る新入生に踏まれるのを待ちわびています。間もなく、校舎を囲むリンゴの木に花が咲き乱れ、明日からは毎日、この礼拝堂で全校生徒と顔を合わせることになります。教室は新しい学びに取り組む生徒の熱気に包まれ、広い体育館に新一年生の声がこだまするようになります。早くこの環境を好きになってください。心に大きな希望を与える目標に照準を当て、力を出し切ってください。21世紀の世界で、力を発揮できる人間になってください。

保護者の皆様。本当におめでとうございます。大事なご子息、ご息女の教育を私たちにお委ね下さり、心から感謝申し上げます。世界の裏側で戦争が続き、近隣の海が物騒な雰囲気に包まれる今、学校に通うお一人お一人の心を守り、聖書が幸いになるとの約束している「平和を実現する人」に育つように力を尽くします。学校として、21世紀が求めるスキルが身に付く環境を整えるように、精一杯の努力をさせていただきました。年々高くなる高度技術社会のハードルにおじけることなく、立派に活躍できる力を身に付けて卒業できるように、私たちと手を取り合って下さい。よろしく、お願い申し上げます。

御来賓の皆様。ご多用のなか、新一年生を激励するためにご列席いただき、誠にありがとうございます。ここにいる新一年生は、新しい世の中で津軽が、そして日本が一目置かれる存在として輝き続けるように、大事な役割を担う運命を背負っています。落胆することなく、幸せに通じる道から外れることのないように導くのは、大人である私たちの厳粛な勤めです。これから彼ら、彼女らの成長の過程を暖かく見守り、機会ある度にお励ましの言葉を下さるよう、お願い申し上げます。

新入生のお一人お一人が三年、もしくは六年後、東奥義塾の教育に裏付けられ、決して変わることのない真理をしっかりと心に刻み、新しい時代の勝利者として、必要な知識と技能を身に付け、このキャンパスから力強く飛び立つことと固く信じ、式辞といたします。

20234月6日

東奥義塾高等学校

東奥義塾中学校

塾長 コルドウェル ジョン

Comments

Popular posts from this blog

2024年7月22日 終業礼拝 「心を見る神」

2024年3月7日 終業礼拝 「見捨てられることはない」

2024年8月26日 礼拝説教 「羊飼いの即位」