2022年8月23日 始業礼拝 「箱舟は大地を離れて浮かんだ」

 2022823日 始業礼拝

「箱舟は大地を離れて浮かんだ」

創世記71節、7節、10節、1417節、23

1節                  主はノアに言われた。「さあ、あなたとあなたの家族は皆、箱舟に入りなさい。この世代の中であなただけはわたしに従う人だと、わたしは認めている。・・・・・・・・・・・・・

7節                  ノアは妻子や嫁たちと共に洪水を免れようと箱舟に入った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10節             七日が過ぎて、洪水が地上に起こった。 ・・・・・・・・・

14節             彼らと共にそれぞれの獣、それぞれの家畜、それぞれの地を這うもの、それぞれの鳥、小鳥や翼のあるものすべて、

15節             いのちの霊をもつ肉なるものは、二つずつノアのもとに来て箱舟に入った。

16節             神が命じられたとおりに、すべて肉なるものの雄と雌とが来た。主は、ノアの後ろで戸を閉ざされた。

17節             洪水は四十日間地上を覆った。水は次第に増して箱舟を押し上げ、箱舟は大地を離れて浮かんだ。 ・・・・・・・・・

23節             地の面にいた生き物はすべて、人をはじめ、家畜、這うもの、空の鳥に至るまでぬぐい去られた。彼らは大地からぬぐい去られ、ノアと、彼と共に箱舟にいたものだけが残った。

積乱雲が線状になって同じ場所を通過する、線状降水帯という自然現象を耳にするようになったのは、8年前に起きた広島県の土砂災害の時からです。それから毎年のように聞く言葉になりましたが、日本の南の方に起きる現象で、津軽には関係ないという印象があったかと思います。しかし、終業礼拝でノアの洪水の話をしたかと思ったら、夏休みに入って間もなく、線状降水帯が原因でこの津軽に次々と川の氾濫が起きました。青森県が毎日のように全国ニュースに出ることになり、県外の知り合いから心配する電話がかかってきました。皆様や近所の方のお家に被害はなかったでしょうか。気候変動の影響を身近に感じた夏だったかと思います。

これまで人類が造った船の中で一番大きかったのは、日本の会社が1980年に完成させた石油タンカー、ノック・ネヴィス号でした。2010年に解体されましたが、その長さは450メーター以上もありました。現在、カリブ海を中心に航行するクルーズ客船には、全長360メーターの物もありますが、ノアの箱舟はその半分以下の長さでした。近代の鋼鉄製の船と違って、木製の船の大型化には限界があり、聖書に書いてある寸法通りに造ると海の旅には耐えられません。

ノアの箱舟の実物大の模型は、世界に三隻ありますが、今、話題になっているのはアメリカのケンタッキー州にあるアーク・エンカウンターというテーマ・パークにある箱舟です。長さ155メーターの箱舟に入れる体験ツアーもありますが、水に浮かぶことを想定していません。

ノアにも箱舟に乗って海を渡ろうという考えはありませんでした。メソポタミアにある大河が運んで来る水と、それに含まれた養分は、人類に、それまで体験したことのない、文化的で裕福な生活をもたらしました。しかし、その一方、新しくできた耕作地や、それが産む富の分け方を巡って争いが起こり、それまでに見られなかった人間の醜さもあらわになりました。季節ごとに川が氾濫するようになり、被害に遭った人たちを助けるどころか、被害を免れた畑の作物の奪い合いが激しさが増し、死者まで出る始末となりました。

ノアはこの争いに巻き込まれないように、川沿いにある、条件の良い土地から離れ、食料に困った人たちがやって来ると、あるものの中から食べさせてあげました。神様はこの姿を見て言いました。「この世代の中であなただけはわたしに従う人だと、わたしは認めている。」氷河期が終わりを迎え、農業に適した条件が揃いました。いち早く縄張りを作った人たちの生活は良くなる一方でした。しかし、この状態がいつまでも続くと思い込み、後から来た、彼らに仕える人たちへの態度は、限りなく横柄になりました。

しかし、一歩引いた所から眺めていたノアは気付きました。季節ごとにやって来る川の増水は年々、高まっている。山岳地帯にある氷河の溶け方に異変が起きている。急速に溶け出せば大変なことになる。落ち着いて見守る余裕があったノアの心に神様の声が響きました。「あなたはゴフェルの木の箱舟を造りなさい。見よ、わたしは地上に洪水をもたらし、地上のすべてのものは息絶える。」

目先のことしか見えない周囲の人たちと違って、ノアは何年も先のことと、三人の息子たちの将来を見据えていました。川の方角から、歌や踊りにふける人たちの楽しそうな声が響くなか、暇があれば木を倒し、深く考えながら組み立てました。次第に無意味に思える、海にも川にも出ることのない巨大な船が姿を表し始めました。最初は不思議そうに見守るだけだった息子たちに父親の熱意が伝わり、一家揃っての大プロジェクトが進みました。

「親切で真面目な人だけど付き合いが悪い。宴会やお祭りに誘っても顔を出さない。取りつかれたように木を倒す。意味もなく仕事に夢中だ。バカでかい船を作って何になる。『洪水が来る』と言って耳を貸さない。」ますます孤立して行くノアに理解者はいませんでした。ノアにしか聞こえない声があり、ノアにしか見えない物がありました。その声も聞こえない、見える物も見えない人に理解を求めても無理があると悟りました。正しいと確信したことからそれることなく、ノアは休むことなく、船造りに励みました。

日本の学年は四月から始まりますが、学期のバランスが良いとは言えません。入学、または進級したかと思ったらアッと言う間に夏休みに入ります。冬休みも同じように来るかと思っても、なかなか近づいて来ません。二学期は長く、覚悟を決めて取り組まないと、途中で気持ちが切れ、目標を見失います。コツコツと木を倒しながら船を造るノアと、自分を重ねて見てください。学期末になって洪水が来ると、沈む人もいれば水に浮く人もでます。

洪水が来た時に頼りにできる船は何でしょうか。一番大事なのは誰のせいにもできない、自分自身の人格です。約束を守る、正直で、頼りになる人は洪水が来ても沈みません。信用があるなら道が開かれ、先に進むことができます。信用を失うのは簡単なことです。一回でも嘘をつくか、約束を破るか、期待を裏切れば消えて行きます。沈まない船になる、信用を築き上げるには何年もかかります。今の自分にはないと思いますか。築き上げるなら、始めるべき時は今です。

更に大事なのは、ごまかしのない知識や技能を身に着けることです。21世紀のグローバル社会が求めているのは、どうにかこうにか、テストをクリアした人ではなく、本物の知識や技能を持っている人です。自分の血と肉になるまで、日々の学びや修練に励むなら、どこに行っても求められる人になれます。洪水が来ても沈みません。

最後に、絶体絶命になっても揺るがない信仰を持つことです。落ちても大丈夫。負けても大丈夫。人に捨てられても大丈夫。病気になっても大丈夫。死んでも大丈夫。小さな私たちは、宇宙を支えている方の大きな手の中にいるので、そのように言い切ることができます。このような人は洪水が来ても沈みません。「水は次第に増して箱舟を押し上げ、箱舟は大地を離れて浮かんだ。」

年度の二つ目の区切りは今日から始まります。秋から冬にかけ、押し寄せるいかなる困難をも乗り越える力を付け、多くの実りを手にしてください。

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