2022年7月4日 礼拝説教 「血が叫んでいる」
2022年7月4日 礼拝説教
「血が叫んでいる」
創世記4章9節~16節
9節
主はカインに言われた。「お前の弟アベルは、どこにいるのか。」カインは答えた。「知りません。わたしは弟の番人でしょうか。」
10節
主は言われた。「何ということをしたのか。お前の弟の血が土の中からわたしに向かって叫んでいる。
11節
今、お前は呪われる者となった。お前が流した弟の血を、口を開けて飲み込んだ土よりもなお、呪われる。
12節
土を耕しても、土はもはやお前のために作物を産み出すことはない。お前は地上をさまよい、さすらう者となる。」
13節
カインは主に言った。「わたしの罪は重すぎて負いきれません。
14節
今日、あなたがわたしをこの土地から追放なさり、わたしが御顔から隠されて、地上をさまよい、さすらう者となってしまえば、わたしに出会う者はだれであれ、わたしを殺すでしょう。」
15節
主はカインに言われた。「いや、それゆえカインを殺す者は、だれであれ七倍の復讐を受けるであろう。」主はカインに出会う者がだれも彼を撃つことのないように、カインにしるしを付けられた。
16節
カインは主の前を去り、エデンの東、ノド(さすらい)の地に住んだ。
文明社会は人殺しの扱いについて決まりごとがあります。日本では、一番重い殺人という罪を犯した人は手錠をかけられ、裁判官の前に立たされ、死刑判決を受けたら首吊りにされ、命を奪われます。しかし、人間社会の最初の殺人事件が起きたこの頃、そのような決まりはなく、かたき討ちをしに来る人もいなければ、逮捕する警察官もいませんでした。殺した弟アベルの死体を隠したカインは、だれにも見つからないと思い、高をくくっていました。
そんなカインを襲って来たのは人間ではなく、「弟アベルはどこにいるか?」と尋ねる神様の声でした。「知りません」と言ってとぼけるカインの耳に恐ろしい言葉が返ってきました。「お前の弟の血が土の中からわたしに向かって叫んでいる。今、お前は呪われる者となった。」神様の言葉を聞いて怯えるカインはこの時に悟りました。「人をごまかすことができても、神様はごまかせない。」「死人に口なし」という諺がありますが、殺されたアベルの血は仕返しを求めて叫んでいました。罪は後を追って来るもので、逃げることはできません。
カインが聞いた神様の声は、耳に聞こえる声だったでしょうか。それとも、心の中から響く、もっと恐ろしいものだったでしょうか。その答えは、同じような声を聞いたことがある私にはわかる気がします。あまり言いたくない話ですが、今から五十年ほど前、小学生の頃に一回だけ、万引きをしました。万引きという物があると知り、果たして可能だろうかと気になりました。誰も見ていないなら簡単ではないかと思うようになり、お金がなかった訳でもなく、特に欲しかった訳でもないのに、店頭に並んでいる商品の一つをポケットに入れて持ち帰りました。
天罰が下りるのではないかという不安がなかったとは言えませんが、二、三日は平気でした。物を盗んでも大したことないという思いになったその時、家のチャイムがピンポンと鳴りました。戸口に立っている訪問者は親と何か話していましたが、突然、私の心は強い不安に襲われました。「きっと僕の万引きを見た誰かが、親にそのことを報告しに来ただろう。」冷や汗をかきながら大人の会話が終わるのを待ちましたが、親の様子に変わったところはなく、「セーフ」と思いました。ただ、その日から二年近く、毎日のように悩み続けました。
初対面の人に会うと根拠もなく、「この人は僕の万引きの目撃者ではないか」と思うようになり、いつもと違うことがあると、理由もなく不安に襲われました。次第に、恐ろしい声が胸に響くようになりました。「あの店に行って自分のやったことを店員に告白しなさい。」寝ても覚めてその声に悩まされるので、ついに我慢できなくなり、盗んだ物の値段の倍に当たるお金を手に握り、二度と入りたくなかったあの店に行きました。「すみません。僕は二年前にこの店の物を盗みました。」と言えたら恰好が付く話になりますが、心臓がバクバクして何も言えない私は、こっそりとカウンターの横にお金を置き、逃げるようにして店から駆け出しました。
今になって思うと、これで償いができたとは、とても言えません。しかし、小学生だった私の心は、羽が生えて空を飛んでいるかのようにさわやかでした。胸を張って道を歩けるようになり、あの怖い声も聞こえなくなりました。万引きの常習犯にならずに済み、無事に中学校に進むことができました。
命が保証され、弟を殺した割に罰が軽かったようにも見えるカインですが、生きたまま、死よりも辛い罰を負うことになりました。人間社会から追い出せれ、あてもなくさまよう人になったカインは、自ら自分の生活を破壊し、後に生まれて来る私たちに大事な教訓を残すことになりました。
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