2021年3月1日 卒業式 「この世に勝つ勇気」

 

202131日卒業式

「この世に勝つ勇気」

ヨハネによる福音書1633

「あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。

わたしは既に世に勝っている。

神は約束してくれなかった。いつまでも続く青空を。

神は約束してくれなかった。枯れることのない花畑を。

神は約束してくれなかった。雨のない陽だまりを。

悲しみのない喜びを。痛みのない安らぎを。

しかし、

神は約束してくれた。この日を生き抜く力を。

労苦に報いる憩いを。道を照らす光を。

神は約束してくれた。試練に耐える恵を。

上からの助けを。終わりのない愛を。

皆様がお持ちの讃美歌21に載っていませんが、今の言葉は讃美歌の歌詞です。作詞家は若い頃に発症した関節炎が原因で一生、体の自由を奪われました。心を打つ讃美歌を書く作詞家の多くは、この方と同じように、不幸と思われる人生を送ります。不治の病に苦しんだり、最愛の人と悲劇的な別れをしたり、絶望のどん底に突き落とすような経験をします。しかし、想像を絶する辛さの中で、彼らは失望することもなければ、諦めによる落ち着きを求めようともしません。一人残らず、阿部宗教主事が先ほど読んで下さった、キリストの言葉を信じて歩み、多くの人に力を与える言葉を残して生涯を閉じます。

 「あなたがたには世で苦難がある。」苦難の大小に違いがあっても、すべての人に当てはまる言葉です。確かに自業自得というものがあり、賢い生き方をすれば、苦難の多くを避けて通ることができます。しかし、いかなる人徳も、いかなる努力も、いかなる信心さえも、苦難を免れる道を備えません。苦難は人を選ぶことなく、やってくる時にはすべての人を襲います。この世に生きている以上、私たち皆に苦難があります。

 しかし、イエス様が教えた信仰は決して、諦めて苦難を受け入れ、その場に立ち止まらせるものではありませんでした。苦難をごまかさないで直視しながら、それでも勝ったという事実を確信する、希望を手放さない信仰でした。「勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」この言葉を発した時のイエス様は、勝利を目前にしていたと思ってはいけません。受難日の前夜を迎え、夜が明けると惨めな死に方をするのが決定的で、この事実をだれよりも認識していたのはイエス様ご自身でした。しかし、弟子たちが見続けてきた夢が跡形もなく消えようとするその時、イエス様は力強い勝利宣言をし、「わたしは既に世に勝っている。」と言いました。

 今日、私たちは皆様の卒業を祝う、めでたい日を迎えました。しかし、三年間を振り返ると、卒業生はそれぞれ、間違いなく自分にしかわからない苦難を味わってきことと思います。初めて、東奥義塾の制服に袖を通した時、ここにいる全員が納得していた訳ではありませんでした。皆が思ったように学業や競技の成績を伸ばせた訳でもありません。教室の中で楽しそうな会話が聞こえた時、疎外感に悩んでいるのは自分だけかと思った事もあったでしょう。高校生活の最後の一年への理想が、新型コロナウイルスの流行に阻まれたという思いは、ほぼ全員の共通認識だったと思います。

 悲しみや失望は人間として生きる上で避けられないものであり、高校生の内からその事実をイヤというほど味わった卒業生もいると思います。2020年の初め、人類が今になって、20世紀まで人の命を奪ってきた三大災難、つまり戦争、飢饉と疫病をほとんど克服し、これまでにない幸せな時代を迎えたと話す学者もいました。しかし、最初は中国の一地方で起きていると思われた現象が世界に広がり、どこにいても日常が止まり、各国の政府はしばらくの間、なす術を失っているように見えました。人類はこの一年を通して一つの重要な事実を再度学ばされました。「あなたがたには世に苦難がある。」

 明るい兆しが見え始めたのは確かですが、現状からの脱却がいつ来るかはまだわかりません。しかし、歴史から私たちが学べることが一つあるとするなら、決して勇気を失ってはいけないということです。人類は何度も何度も、焼けた廃墟の中から立ち上がり、戦乱の中から平和な時代を作り、克服が困難と思える問題の解決を見出して来ました。現実の厳しさの大きさに圧倒され、身動きできない人が多くいる中にいても、「勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」というイエス様の言葉を心に刻んで生きる人の内に、絶大な力と可能性が秘められています。

卒業生の皆様。ご卒業、おめでとうございます。皆様は高等学校という、個人の行動に様々な制限を加える、守られた環境から、大学、専門学校や企業という、多くの自由を与える一方、個人の責任を厳しく問う世界に出て行こうとしています。昨年から始まった災難の影響を受けるのは避けられないと思いますが、できないことの多さに気を落とす前に、新たできることに目を向けて行動を開始してください。

身の安全に細心の注意を払いながら、「勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている」と言われた方の模範に従い、大胆で力強い生き方を選んでください。東奥義塾の卒業生として羽ばたき、より良い世界を作るご活躍を見守りながら、母校として皆様の実績の一つ一つを心に留め、私たちの最大の喜びと思って見守ります。

保護者の皆様。ご子息、ご息女のご卒業、おめでとうございます。十八年余り続いた子育ては大きな節目を迎えました。お子様の一歩一歩に気を配りながら過ごして来た日々は、ここで大きな実を結びました。決して忘れられないのは、小さな命としてこの世に誕生したあの日のことだと思いますが、今日この日、自分の人生に責任を持って歩む立派な姿で、高等学校を卒業することになりました。保護者様の夢と期待を背負いながら、一家の誇るべき代表として、力強い歩みを続けて行くと、固く信じています。

ご来賓の皆様。今年度も私たちの卒業式にご列席いただき、まことにありがとうございます。普段から我が校を深く心に留め、教職員である私たちをご指導いただき、今日、卒業する一人一人をこの三年間、励まし、支え、暖かく見守ってくださったことを、心から感謝申し上げます。今後も、卒業する生徒の後輩にあたる一人一人に、特別な目を注いでくださるよう、お願い申し上げます。

今日ここに集まり、ここから出て行く、尊いお一人お一人の上に、神様の豊かな祝福があることを祈り、式辞といたします。

202131

東奥義塾高等学校 

塾長 コルドウェル ジョン

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